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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)83号 決定

抗告人 乙山猛こと乙猛

主文

原審判を取り消す。

本件を神戸家庭裁判所に差し戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は別紙(即時抗告申立書)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

一件記録によれば、本件相続放棄の申述は定型の相続放棄申述書用紙を用いてなされており、その申述の趣旨欄には相続の放棄をする旨がなんらの留保をとどめることなく単純に記載されているところ、原審第二回審問期日において、抗告人が、韓国にある被相続人名義の土地については被相続人の意思に従って相続したいと思っているが、日本にある相続財産についてはすべて相続放棄する旨陳述したことが窺われるので、これによって本件相続放棄の申述の趣旨・内容を日本国内にある相続財産に限定する旨変更したものとみる余地がないわけではない。

しかし、原審判官において、その際、相続放棄の意味及び一部放棄の効果について説明した上、抗告人の上記陳述の真意を質していたならば、単に一応の希望を述べただけで申述の趣旨を変更する意思など全く存在しない旨抗告人が答えたであろう可能性を否定することもできない。しかるに、原審判官はそのような確認をしないまま、抗告人の本件相続放棄の申述は相続財産の一部についてなされたものと即断し、これを不適法として本件申述放棄を却下したものであるから、その点において原審判は不当であり、取り消しを免れない。

よって、原決定を取り消したうえ、本件申述の受理についてさらに審理をさせるため、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 野村利夫 楠本新)

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